坂井(さかい) 南美(なみ) (40)

 1980年、高知県生まれ。都内の自然豊かな場所で暮らした小学生時代は木登りや昆虫採集などの外遊びが好きだった。その頃から天文学者に成りたかった訳ではないが、父親に買ってもらった天体望遠鏡で月のクレーターを見て感動したことを覚えている。地上の生命の進化については19世紀の生物学者ヘッケルが描いた、進化の道筋を樹に見立てた“系統樹”がある。 坂井さんは早稲田大学理工学部物理学科に進学したが、宇宙の星々の系統樹を理解し太陽系の起源を知りたいと考え、大学院は星の誕生を研究していた東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の研究室へと進んだ。2008年9月、早期修業年限特例で同研究科の博士課程を修了し、博士号(理学)を取得して助教に就任した。2015年4月に理化学研究所へ。2017年から現職の主任研究員となり、「坂井 星・惑星形成研究室」を主宰している。
 坂井さんは星や惑星が形成される過程と、形成過程における物質の進化を研究している。星や惑星は星間分子雲と呼ばれるガスや塵から成る雲の中で誕生する。分子は固有の周波数の電磁波(スペクトル線)を出していて、その多くは周波数が特定されている。坂井さんは研究キャリアの初期に国立天文台の電波望遠鏡を用いてその電磁波を観測し、誕生したばかりの星の周りで従来そこに存在しないとされていた不飽和な有機分子「炭素鎖分子」を発見。この発見に疑問を呈する研究者もいたが根気強く証拠を重ね、証明した。その後、チリにある最先端の電波望遠鏡「ALMA」を用いた研究で、それらの分子を観測し、生まれつつある星の周りにできる原始星円盤の誕生課程の解明にも成功。2014年には国際的な総合科学誌『Nature』に論文が掲載され、2018年には国立科学技術・学術政策研究所が選考する「ナイスステップな研究者」に選ばれた。
 坂井さんは当財団の支援金で「分子分光測定に基づく原始惑星系円盤の化学進化の解明」をテーマに研究する。自身が開発した装置を用いて、(1)有機分子の希少同位体種の分光測定を行い、(2)公開用データベースを構築、さらに(3)それらのデータを用いてアルマ望遠鏡で原始惑星系円盤の観測を行い、原始惑星系円盤の化学進化過程を明らかにしようと考えている。分光測定では一つの分子につき数百本のスペクトル線が検出される。これらの解析を研修生として滞在している大学院修士課程の女子学生に担当してもらうことで、彼女たちの研究支援と教育も同時進行させることを考えている。
 理化学研究所には3,000名の研究者が所属している。その中で特に優れた業績があり、高い研究指導力と科学者としての見識を有し、今後も卓越した成果を出すと期待されている50名弱が主任研究員を務めている。理学系の女性研究者は全体の2%程度で、研究と直接関係ない委員会などの事務仕事の負担が同世代の男性研究者より大きい。坂井さんは二児の子育てと研究者としての活動の両立に苦慮しながらも筆頭論文が2度も『Nature』に掲載されるなど着実に業績を挙げており、後輩女子学生のロールモデルとしても期待されている。