五嶋(ごとう) みどり(43)

 1971年、大阪府生まれ。五嶋みどりさんは、日本が世界に誇るバイオリニストで、海外では“Midori"の名で活躍している。現在、年間70回以上の演奏活動に加えて、コミュニティー・エンゲージメント活動〔=地域密着型の社会貢献活動〕も積極的に行っている。
 3歳でバイオリンを始めた五嶋さんは、10歳で米国のジュリアード音楽院プレカレッジに入学。11歳でニューヨーク・フィルハーモニックとの共演で楽壇にデビューして以来、著名な指揮者や楽器奏者、世界最高水準のオーケストラとの共演を重ねてきた。14歳の時、米国のボストン交響楽団と共演中に2度もE線が切れたにも関わらずコンサートマスターから楽器を借りて完奏したエピソードは、「タングルウッドの奇跡」として当時、日本でも報道され感動を呼んだ。この時のことが後に米国の小学校の教科書に掲載されたり、教育番組の「セサミストリート」に登場したりするなど、欧米でも最もポピュラーなクラシック音楽家として親しまれている。2012年、デビュー30周年記念のツアーを日本で開催。この特別プロジェクトでは、復興と平和への願いや演奏できることへの感謝の気持ちを込めて、バッハの「無伴奏ソナタ&パルティータ」が全曲演奏され、会場となったユネスコの世界遺産に登録された神社や教会などには、海外からも多数の人が訪れた。また本年1月、ソリストとして参加した「パウル・ヒンデミット作品集」が、第56回グラミー賞の最優秀クラシック・コンペンディアム賞を受賞したことは記憶に新しい。
 五嶋さんは後進の指導にも熱心に取り組んでいる。マンハッタン音楽院の教授を務めた後、2004年に南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校の「ハイフェッツ・チェアー」に就任、2007年から弦楽学部長を務め、2012年に特別教授(Distinguished Professor)に就任した。またイエール大学から名誉博士号を授与されており、アメリカ芸術科学アカデミーのメンバーでもある。
 デビュー当時からコミュニティー・エンゲージメント活動を始め、1992年にはニューヨークに非営利団体「みどり教育財団」を設立し、現在も公立小学校でコンサートや楽器指導、放課後プログラムなどを行っている。同時に日本で設立した「みどり教育財団東京オフィス〔現:認定NPO法人ミュージック・シェアリング〕」では、活動に協力するアーティストと共に日本やアジア各地の小学校や児童施設などで「訪問コンサート」を開いている。また、2001年に受賞したエヴェリー・フィッシャー賞の賞金を基に米国で「パートナーズ・イン・パフォーマンス」を設立し、リサイタルや室内楽のコンサートが開催される機会が少ないコミュニティーが、質の高いコンサートが開催できるよう支援し、活性化に貢献している。そのほか、2007年9月からは、国連ピース・メッセンジャーとしても活躍している。
 神童からカリスマへ。先月には東京のサントリーホールで5日間連続の公演が開催され、円熟期を迎えた五嶋さんの演奏を多くの人が堪能した。