杉山(すぎやま) 清佳(さやか)(40)

 1973年、愛知県生まれ。1996年3月に東北大学理学部生物学科を卒業し、同年4月から同大学大学院へ進学。2001年3月に博士課程・医学系研究科・医科学専攻を修了し、視覚発生の仕組みを解明する研究で医学博士号を取得した。専門分野は神経回路の形成。杉山さんは2001年4月から研究者として歩みはじめ、国内においては理化学研究所で、2006年6月からは米国ハーバード大学・ボストン小児病院で、視覚の臨界期の仕組みの研究に取り組んだ。2008年には研究成果の論文が最高評価の学会誌『Cell』に掲載された。2009年10月から新潟大学大学院医歯学総合研究科で、女性唯一のテニュア・トラック准教授として自らの研究室を主宰し、同学のアウトリーチ活動においても貢献している。
 現在の研究テーマは、脳の柔軟性を左右するメカニズム。スポーツや音楽、語学などの習い事は大人より子どもの方が上達や習得が早いといわれているが、これには脳の成長過程が関係している。子どもの脳には個々の体験や経験に応じて神経回路が集中的に形成される特別な時期があり、臨界期と呼ばれている。この特別な時期に形成された神経回路は生涯個性として保たれることから、幼児教育への関心も高まってきている。「三つ子の魂百まで」のことわざが、脳の成長では現実の現象として起きている。子どもの脳に臨界期をもたらす仕組みを解明すれば、臨界期の始まりや終わりを人為的に操作することが可能となる。これを応用して大人の脳において副作用なく臨界期を活性化することができれば、さまざまな精神疾患での回路の誤配線や脳出血などによる回路の断線を修復し、脳の機能を再建する治療法が開発されると期待できる。
 杉山さんは、新潟大学赴任後に複数の競争的資金を獲得している。特筆すべきは、45歳以下の研究者を対象とした、内閣府主導の「最先端・次世代研究開発プログラム」で、杉山さんの研究課題「経験が脳の発達を促すメカニズム」が、5.8%の難関をくぐり採択されたことである。3年間にわたるこの大型研究助成は間もなく終了するが、非常に興味深い成果が出始めている。今後は当財団の支援金により、脳の柔軟性に必要な遺伝子群と仕組みを明らかにするための研究を継続し、論文発表を行いたいと考えている。
 研究者として活躍中の杉山さんは、3歳の男の子の母親でもある。妊娠8か月で米国から帰国し、新潟大学へ赴任した。女性の場合、ライフイベントとチャンスは年齢的に重なることが多い。杉山さんは、家庭を持ちながら機会を得た女性研究者の身近なロールモデルとして、新潟大学の女性教員らからも注目されている。